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2011. 02. 21  
代替医療のトリック(新潮社)』を読んでいたら,ミルクティを飲むときに,ミルクを先に入れるのと,後に入れるのはどちらがいいかという問いに対する科学的な解が書かれていた(p.194).

以下,『代替医療のトリック(p.194-195)』から引用
二十世紀のイギリスで,臨床試験の利用に先駆的な役割を果たしたサー・ロン・フィッシャーが,臨床試験の簡便さとその威力を見せつける例としてよく持ち出したのが,次のような思い出話だった.
(中略)
ひとりの女性が,ミルクをあらかじめカップに入れておき,そこにお茶を注ぐべきであって,お茶にミルクを注げば味が落ちてしまうと言い張ったが,同じテーブルにいた科学者たちは,そんなことで味に違いは生じないと言った.
(中略)
さっそく,お茶にミルクを注いだものと,ミルクにお茶を注いだものが数カップずつ用意されて,その女性にどっちがどっちか当ててもらうことになった.ミルクティーは完全に秘密裏に用意され,見た目もまったく同じだった.ところがその女性は,お茶にミルクを注いだものと,ミルクにお茶を注いだものとを,正しく判別したのだ.
(中略)
実際,この二つの作り方でミルクティーの味が変わるのには,立派な科学的根拠がある.お茶にミルクを注ぐと味が落ちるのだが,それはミルクの温度が急激に上がりすぎて,ミルクに含まれるタンパク質が変質してしまうからだ(変質したタンパク質は酸味を帯びる).
フィッシャーはこの簡便な例を基礎として,臨床試験の難しいところまで含め詳細に論じた『実験計画法』という科学的検証法の本を著した.

「ミルクを入れる順番」について調べると,2003年6月24日にイギリスの王立化学協会が「完ぺきな紅茶の入れ方」を発表していた.ミルクのタンパク質は摂氏75度になると変質する.そのため,熱い紅茶の中にミルクが注がれるよりも,ミルクの中に熱い紅茶が注がれた時の方がミルクのタンパク質が変質せずにおいしい紅茶が飲めるらしい.

この話を初めて知った時は,気持ちの問題では?と思っていた.しかし,科学的な考察までされていて,本当にそんな違いがあるんだと知った今は,当時,この違いを感じ取っていたヒトは,頭で考えて理解しづらいことと考えるよりも,自分の感覚を大事にしていたんだ思った.

この「ミルクを入れる順番の話」は紅茶の本だけでなく,統計学の本にもよく書かれている.
(例えば,『統計学を拓いた異才たち(日経ビジネス人文庫)の第1章 紅茶の違いのわかる婦人』などがある)

以下,『統計学を拓いた異才たち(p.21-31)』から引用
1920年代末のイングランドはケンブリッジ,ある夏の午後のことだった.大学教授たちとその夫人,それに数人の客からなるグループが屋外のテーブルを囲み,アフタヌーンティーを楽しんでいた.ある婦人がこう言い出した.紅茶にミルクを注ぐのとミルクに紅茶を注ぐのでは味が違うのよ,と.
科学者たちを自負する男性たちは,それはまったくナンセンスだよと一笑に付した.何か違うというのだ?彼らのしてみれば,紅茶とミルクが混ざってしまえば化学的な違いなどあり得なかった.1人の痩せた背の低い男がその問題に身を乗り出した.男はぶあつい眼鏡をかけ,灰色の(先を細く尖らせた)ヴァンダイク髭をたくわえていた.
「その命題を検定してみようじゃないか」.興奮しながら,彼はさっそく実験を概説し始めた.ティーカップをずらりと並べ,いくつかには紅茶にミルクを注ぎ,残りにはミルクに紅茶を注いで,二つの違いを主張する婦人に飲んでもらうことにしたのである.
(中略)
私はこの話を,その午後その場に居合わせたという男性から1960年代末に聞いた.彼の名はヒュー・スミス(Hugh Smith).科学論文を書くうえではH・フェアフィールド・スミス(H. Fairfield Smith)という名前を使っていた.
(中略)
このヴァンダイク髭の男はロナルド・エイルマー・フィッシャー(Ronald Aylmer Fisher)といい,当時,30代後半であった.彼はのちにナイトの称号を受け,ロナルド・フィッシャー卿となった.1935年に『実験計画法(The Design of Experiments)』という本を著し,その第2章でかの婦人が紅茶を飲む実験について記している.
フィッシャーは仮説検定問題として,婦人とその意見を議論している.彼女が淹れ方の違いを判別できるという決定を下すにはどのような実験を計画すればいいだろうか.彼はさまざまな方法を考え出した.
(中略)
フィッシャーは『実験計画法』のなかで,そのような実験で導き出される様々な結果を検討している.カップの数,出す順序,またどの程度まで実験のやり方を婦人に伝えるかといったことをどのように決めるべきか述べている.彼は,婦人が正しいか否かによって異なる結果が導き出される確率を計算した.
(中略)
フィッシャーが著した実験計画の本は,20世紀前半の科学全分野に変革をもたらす礎となった.
(中略)
フィッシャー以前の実験とは科学者ごとにまちまちだった.優れた科学者は新たな知識を生む出すような実験を組み立てることができた.さほどでもない科学者は,データを蓄積してはいくものの,知識を増すには役に立たない「実験らしきもの」に没入していることがしばしばであった.
(中略)
さて,かの紅茶の婦人であるが,その後どうなったのだろうか?フィッシャーはそのまばゆいケンブリッジの夏の午後の実験がどうなったかについては書き残してはいない.しかし,スミス教授から聞いた所によると,婦人はどれも一つ残らず正確に言い当てたそうである.

フィッシャー以後,実験の組み方,解析方法についての基本的なフォーマットが整備され,それは,今日の医学の分野における根拠に証拠に基づいた医療(Evidence-Based-Medicine: EBM)に続いている.

このような考え方が整備されたのって意外と最近のことなんだと思った.


関連ウェブサイト:
紅茶業界の著名人による紹介
  タカナシ乳業株式会社 紅茶研究家・磯淵 猛さんのミルクと紅茶のお話/第1話 ミルクは先か、後か、英国紅茶論争ついに決着
  ティーハウスタカノ 高野の独り言/第5回 ミルクが先か後か?
英国王立化学協会のプレスリリースの翻訳をしてくれている人のウェブサイト
  英国王立化学協会『一杯の完璧な紅茶の入れ方』
フィッシャーの3原則について
  統計WEB | コラム | 統計備忘録 2008年5-8月
追記(2011.2.23)
紅茶にミルクを入れた順番の記述について,誤記があると訳者あとがきにあったので,その部分を引用する.

『統計学を拓いた異才たち(p.450)』から引用
オーストラリアのアデレード大学名誉教授のルードブルック氏が指摘している(Ludbrook, J., "R.A. Fisher's Life and Death in Australia, 1959-1962," American Statistician, Vol.59, No.2, pp.164-165, 2005.)ように,第1章の紅茶の逸話は,フィッシャーの娘による伝記によると,フィッシャーのケンブリッジ大学時代の出来事ではなく,1920年代のロザムステッド試験場時代の出来事である.
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